生き返った山田さんは思いました。
生き返った山田さんは思いました。
「神様は私を死なせてくれませんでした。
まだお前にはやることがあるだろう。
そんな声がどこからともなく聞こえてきたような気がします。
一度は亡くした命。
ならばこれからは私利私欲や自己愛を捨て、他人への愛のために生きよう」
24歳の春。
山田さんの人生の中で、その日は最も大きなターニングポイントだったのです。
さて、しかしここからがまた大変でした。
死ぬことさえ許してはもらえなかった。
自分に残されたものは何一つ無い。
プライド、恥、弱さ。
山田さんは、そのすべてをさらけ出す覚悟を決めました。
当時の主要仕入れ先はセントラル硝子という会社です。
支払も滞りがちで、このままでは仕入れさえもできなくなります。
山田さんは、セントラル硝子の山本直一課長(故人)の自宅へと向かいました。
山田さんは、山本課長にすべてをさらけ出しました。
借金の膨大さと、危うい経営状況に山本課長は驚きを隠せませんでした。
これで、セントラル硝子との取引はダメになるかもしれない。
そうなればもう打つ手はない。
山田さんはじっと目をつぶって山本課長の言葉を待ちました。
山本課長は、ぐっと山田さんを見据えています。
山本課長は、ぐっと山田さんを見据えて、怒りをこめて言いました。
「どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ!」
山田さんは返す言葉も見つかりませんでした。
しかしその翌日、山本課長は、セントラル硝子の東京本社に飛び、社長に直談判してくれたのです。
「山田硝子は、必ず立ち直ります。
この件は私に任せてもらえませんか。
すべての責任は私がとります」
一課長が社長に直談判をする。
それは通常ではあり得ない行為です。
まして、
自分自身の出処進退まで賭けるというのです。
後日、山田さんは語っています。
「どうして山本課長が若輩者の私などに手を差し伸べてくれたのか。
それは今でも分かりません。
ただ山本課長は敗戦から5年間、シベリアで抑留された経験があります。
どん底を見た人間として、どん底にいた私を救おうとしたのかもしれません。」
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