世の中は沢山のいいね!があふれてる。

「優しさをありがとう」

2017/02/21 UPDATE
 
7,747 views


二度の脳梗塞で重度の障害が残った夫は
狭心症の発作をくり返しながら
自宅療養を続けている。

そして、人との接触を求めて
ときおり外出もする。

冬の一日、急に思い立って
遊園地に行った。

広場の隅に車椅子を止め
私は傍らに立って元気に走り回る
子どもたちを見ていた。

思ったより寒く
早く帰らねばと思った。

そのとき、広場に歓声があがった
ドナルド・ダックが現れ
子どもたちがどっとかけ寄ったのだ。

ところが、そのあひるさんは
子どもたちをかき分けて
どんどんかけてこちらへ近づいてくる。

広場の隅にいる私たちのほうへ…

そして、車椅子に乗った夫の前に来ると
大きく一礼して、大きな手で
夫の背中を撫でてくれた。

二度、三度。

突然のできごとに
私たちも周りの人も驚いた。

夫の背中を撫でて
今度は私の腕をさすり
両手で包み込んでくれる。

大きな白い温かい手で…

優しさが老いたふたりを包み
その温かさが周りに広がって
見ていた人たちの間から拍手が起こった。

夫の顔を見ると
涙がほろほろ頬に伝わっている。

風の冷たさを忘れた。
 

「優しさをありがとう」
 

と言うのが、精一杯の感謝の言葉。

あひるさんはウンウンとうなずいて
もう一度夫の背中を撫でて
子どもたちのほうへかけていった。

出典元:涙が出るほどいい話 河出文庫



コメント

0
コメントを投稿する

※ URLを入力すると、リンクや画像に自動的に変換されます。
※ 不適切と判断させていただいた投稿は削除させていただきます。

あなたにオススメの記事

よく一緒に見られている関連記事

関連する記事

世の中には、こんなにたくさんの『いいね!』があふれている。

PICKUP

ピックアップ

Ranking

ランキング

人気のキーワード

いま話題のキーワード

おすすめ