その日の山田選手は集中力が違っていました。
1回表の第1打席。
先頭打者の山田哲人選手の打球はが二遊間を鋭く破りました。
高めに浮いてきた144キロを見逃さず中前打。
チームを鼓舞する一打でした。
山田選手にはチームと同じか、それ以上に、届けたい相手がいました。
前日のキューバ戦の試合終了後、喜びにわくロッカー室で着替えているときでした。
何となく無音のテレビに目をやると、あのシーンが流れていました。
手が止まりました。
目に入ったのは捕球直後に大喜びする、丸刈り頭。
「グラブを持って来てくれたんだから、野球少年なんでしょうね」。
責める気持ちなど、わくはずがありませんでした。
そしてこの日の朝、歯を磨きながら、ふと、丸刈り頭のことが気になりました。
スマートフォンを手に取りました。
「うつろな表情で、フードをかぶったまま。青ざめていた」とありました。
落ち込んでいることを知りました。
だから、山田選手は気持ちを伝えたくなりました。
「僕は全然気にしてない。だから野球を嫌いにならず、またグラブを持って応援に来てほしい」。
「これも何かの縁だし、将来プロ野球選手になって、一緒に『あんなことがあったね』と懐かしい話ができるように頑張ってほしい。僕も完璧な本塁打を打てるように頑張ります」。
山田選手から少年へ。
幻のホームランは、それ以上の価値を生んだのかもしれません。
今回の行為は大きなマナー違反です。
もちろん少年はそれを知らず、悪気はなかったかもしれません。
しかしメディアはそれを見逃さず少年を傷つけることになったことでしょう。
そんな少年に山田選手からの温かいメッセージが届いてくれることを願います。
コメントのようにいつか『あんなことがあったね』と懐かしむ日が来るといいですね。
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