そして九月十六日の朝のことでした。先生が、
「実は悲しいお知らせがあります。
昨日、まきさんは病気のため、
お亡くなりになりました。みんな、目を閉じて」
と言うのです。僕は、何の意味かわかりませんでした。
先生に聞いたら、先生は、
「まきさんは死んでしまったのです」
と言うのです。僕は生まれてから、
この時まで、知っている人が死ぬことがなかったので、
人が死んでも、また会えるとばかり思ってました。
みんなでお葬式に行くことになって、
教室に集まっていると、
まきさんが教室の外の廊下のところに立って、
僕を見て笑っているのです。僕が、
「まきさん。まきさん」
とさけぶと、みんなから、
「きもちわるー」
と言われました。
おそらく、幽霊を見たのは、
あの時が最初で最後だと思います。
それから、みんなと葬式に行きました。
それまで、葬式と言えばタダでお菓子をもらえるところだと
ばっかり思っていました。
でも、まきさんの葬式では、
お菓子をもらってもうれしくなかったし、
食べようと思ってものどに通らない。
--まだ、会えるような気がしてたまらなかったのです。
そして次の日、学校に行くと、
まきさんのつくえの上に花がかざってありました。
僕はみんなが帰ってから、一人だけのこって、
まきさんのつくえにすわり、まきさんが国語のノートに、
「花いちもんめ、大西君がほしい」
と、書いていてくれたことを思い出してました。
そして次の日から、だれよりも早く教室に行って、
花の水をかえて、一度家に帰って、
それからみんなといっしょに登校することを始めました。
僕はその日から、そのことがバレるのがこわくて、
みんなにむりしてでもしゃべりかけるようになりました。
それで、人としゃべれるようになったのです。
毎日、毎日、花の水をかえていました。
花がかれかかったら、自転車に乗ってしぎ山の下まで行って、
雑草の色のきれいなのを三本ほど抜いて、
かびんに入れてやりました。クラスのみんなは、
「花がかってにふえている」
とか言うので、もしバレたらどうしようと思っていました。
そうしたら、先生が、
「みんなが帰ったあと、先生が花をいけているのです」
と言ってくれたのでホッとしました。
そしてクリスマスイブの日、
先生に職員室によばれて、
「大西君がまきさんの花をいけていることは、
だいぶん前からわかっていたのよ」
と言われたんです。
僕は、はずかしくてたまりませんでした。先生は、
「この二学期で、つくえの上に花をかざるのはやめて、
席替えをしようと思っているの。いい? 大西君」
と言いました。僕は、首を、たてにふりました。
二学期最後の席替えをしたら、
前にまきさんが使っていたつくえに、
偶然、僕がすわることになりました。
つくえの中を見ると、奥のほうにハンカチが残っていました。
おそらく、まきさんのハンカチだと思います。
僕はそのハンカチを、
小学校を卒業する時まで、ずーっと持ってました。
これが、僕の初恋でした。
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